風が吹くとき -When The Wind Blows-

風が吹くとき

風が吹くとき

この本を子供のころに読んだ。子供ながらに、老夫婦の途中までの楽観主義的な振る舞いと、途中からの絶望の対比が恐ろしくて、いろんな思いが渦巻いた絵本だった。ほのぼのとした絵本だったのに、後半には放射能が人体に及ぼす影響が、カラーの絵本ではっきりと、しっかりとわかってしまう。そして、絶望だけが彼らを取り囲む。反戦反核、というプロパガンダをするつもりはさらさらない。だけれども、この本だけはどうしても忘れられない。
怖い話というものは、大概がオカルトじみていて、非現実的で、身の回りで起こりうるものと認識できないものが多い。が、これは違った。もしかしたら、僕が、僕の家族が、友達が、好きな子が、先生が、みんなが明日にでも巻き込まれるかもしれない、そんなリアルの恐怖だった。

ちゃんと理解できる年になったら、子供に読ませてみようと思う。

以下、あらすじ。結末注意
ただただ毎日を平和に生きてきた老夫婦。しかし、世界はどうやら戦争をしているらしい。有事に備えて政府の用意したマニュアルを読みながら、彼らはそれでも、どこか楽天的に、最悪の事態だけはきっとないだろうと思いながらすごす。ところがそこで、けたたましくラジオが鳴る。「あと3分後、核ミサイルが到来します!」
間一髪シェルターへ隠れる二人。

突然の風

鳴らないラジオ。それでも、政府はきっと助けてくれる。信じながら明日を待つ二人。室内なら平気だろうと彼らはシェルターを出る。しかし家は瓦礫と化している。周囲で人が焼けているような、牛乳瓶が溶けているような、そんな状況で、彼らは楽天的に日常を過ごす。徐々に体に起こる異変。放射線に蝕まれていく体。それでも、ぎりぎりのところで励ましあい、ポジティブシンキングで二人は待ち続ける、祈りながら。決して彼らには助けは来ない。信じようとも。明日は来ない。最期までポジティブに信じながら彼らは死んでいく。そのポジティブさが恐怖を増幅しているのかもしれない。