夢枕の父

ちょっと前の話になるが、死んだ父が夢に出てきた。
父は死ぬちょっと前にはかなり衰弱していて、しゃべるのもやっと、ものを食べることもままならない感じだった。
家の仏間に置いた電動のベッドに横になり、それでも、孫を見ると笑ってくれていた。そんな父が夢に出てきた。

夢の中の父は仏間のベッドに横になっていたものの、あの時とは比べ物にならないほど元気だった。
僕が家族を連れて帰ると、「おおああ久しぶりだな!」と、力強く声をかけてくれた。
「ひさしぶり。」と僕が照れてそっけなく返事をすると、父は「あのころは5000円ポッケに入れてよく旅してたなあ!」と胸ポケットあたりを叩きながら笑っていた。
正直そんなことをした覚えは全くなかった。5000円をポケットに入れて出歩いたことすらあったかどうかわからないのに。
だが、それを否定して議論するほどの状態でないこともなんとなく察していたので、「ははは」と笑うのみで特段なにも言わなかった。

ただそれだけだった。その言葉だけを残して、父は僕をまた現実に引き戻した。
目が覚めるといつもの寝室。妻はなぜか起きていた。僕は妻に夢の話をすると、少しだけ泣いてまた寝た。